父がしたこと
目付の永井重彰は、父で小納戸頭取の元重から御藩主の病状を告げられる。居並ぶ漢方の藩医の面々を差し置いて、手術を依頼されたのは在村医の向坂清庵。向坂は麻沸湯による全身麻酔を使った華岡流外科の名医で、重彰にとっては、生後間もない息子・拡の命を救ってくれた「神様よりも偉い存在」でもあった。御藩主の手術に万が一のことが起これば、向坂は一国の主を死なせた庸医に落ちかねない。そこで、元重は執刀する医師の名前を伏せ、自らと重彰を助手に据えることで、手術を秘密裡に行う計画を立てるが……。御藩主の手術をきっかけに、譜代筆頭・永井家の運命が大きく動き出す。